大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)138号 判決

控訴人(原告) 高橋寿三郎

被控訴人(被告) 宮城県知事

補助参加人 布施正雄 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用及び補助参加によつて生じた訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十五年一月八日原判決添附目録第一記載の農地について補助参加人布施正雄に対し、同目録第二記載の農地について補助参加人斉藤俊介に対し各売渡通知書を交付してした売渡処分はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において、

一、原判決事実摘示の控訴人の主張事実中(原判決三枚目表五行目から六行目)「同人は形の上では右小作地に関し不在地主となつたのではあるけれども」以下に「昭和三十年一月一日蛇田村の残区域も石巻市に合併編入されたから、前記地主大内成久は本件農地について不在地主ではなくなつたわけであり、従つて右農地は買収の対象になるべきものではない。」を加える。

二、本件買収並びに売渡は、買収機関において本件農地の所有者大内成久の居住地区が石巻市に編入されたため同人が不在地主となつたのを奇貨として、控訴人の右農地に対する長年の小作関係ないしその転貸の特殊事情を無視し、ことさらにこれを買収して一時転貸人であること明白な補助参加人布施及び斉藤に売り渡そうとする意図のもとにこれをしたものであるから、この点において重大且つ明白な瑕疵があり無効である。

と述べ、被控訴代理人において「控訴人主張の右一の事実中蛇田村の残区域が控訴人主張の日時に石巻市に合併編入されたことは認めるが、その余の点は否認する。同二の事実につき被控訴人従前の主張に反する点は否認する。」と述べた。(証拠省略)

理由

当裁判所は新たに次の理由を附加するほか、原判決と同様の理由によつて控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断したので、原判決の理由記載をここに引用する。(ただし原判決四枚目裏五行目から六行目「同斉藤三太郎」の次に「当審証人宍戸隼人、斉藤よし」を、同じく六行目「原告本人尋問の結果(第一、二回)」の次に「当審における控訴人本人尋問の結果」を、同じく七行目「斉藤俊介」の次に「当審証人斉藤俊介、布施正雄」を、同じく八行目「甲第一号証」の次に「原審証人斉藤俊介の証言により成立を推認する甲第十二号証も成立に争のない甲第十三号証の記載及び前掲証人斉藤よし、斉藤俊介、布施正雄の各証言(ただし斉藤よしについてはその一部)と照合すれば、これらの記載が補助参加人等の真意に出たものであるかどうかが極めて疑しく、従つてこれら」を、また同じく四枚目裏十四行目「同大内成久(第一、二回)」の次に「当審証人宍戸隼人、大内成久、斉藤よし」を、同じく五枚目表一行目「原告本人尋問の結果(第一、二回)」の次に「当審における控訴人本人尋問の結果」を、同じく十二行目「同斉藤俊介」の次に「当審証人布施正雄、斉藤俊介、高橋新男、高橋銀蔵、高橋留蔵」をそれぞれ加える。)

控訴人はその後昭和三十年一月一日蛇田村の残区域も石巻市に合併編入されたから、地主大内成久は本件農地について不在地主ではなくなり、従つて右農地は買収の対象となるべきものではない旨主張し、蛇田村の残区域が右日時に石巻市に合併編入されたことは当事者間に争のないところであるが、本件買収手続進行当時右大内成久が本件農地につき不在地主であつたことが前認定のとおりであるとするなら、右買収手続終了後右のような行政区画の変更により右農地の小作地としての属性に再び変動を来したからといつて、右買収手続進行当時蛇田村の残区域も近く石巻市に合併されることが明らかに予想されていたとすれば格別(本件にはそのような主張も立証もない)先になされた不在地主を理由とする本件買収が違法となるいわれはない。右主張は採用できない。

控訴人は本件買収並びに売渡は買収機関において本件農地の地主大内成久の居住地区が石巻市に編入され、同人が不在地主となつたのを奇貨として、控訴人の長年の小作関係ないしその転貸の特殊事情を無視し、ことさらにこれを買収して一時転貸人であること明白な補助参加人布施及び斉藤に売り渡そうとする意図に出たものでこの点において重大且つ明白な瑕疵を蔵し無効である旨主張するけれども、本件農地を不在地主の小作地として買収したことが本件買収処分の無効原因とならないことは前示判断のとおりであるし、また控訴人の全立証をもつてしても本件買収機関が控訴人主張のような意図のもとにその権限を濫用して本件買収並びに売渡を行つたとはとうてい認めることができないから、右主張も採用できない。

他に以上認定を覆すに足る証拠はない。従つて原判決は相当であり、本件控訴はその理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第九十四条、第八十八条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例